プロジェクトストーリー

沿線リニューアル事業のモデルケースに。

阪急高槻市駅直結の高架下商業施設「ミング・阪急高槻」は、1993年の開業以来、テナント構成の変化もないまま、30年近い年月を重ねていた。市場ニーズとの間には乖離があり、また、施設の至るところで経年劣化が見られる。阪急阪神ホールディングスグループとしても沿線の価値向上を長期計画に掲げる中、いよいよ大規模なリニューアル工事が決定。2018年、SC第二(沿線)営業部に配属された木元穂香は、営業担当として本プロジェクトに挑むことになった。

木元 穂香

※所属や担当は、プロジェクト当時のものです。

Episode 1

駅部の環境デザイン刷新と、
異例となる施設のネーミング変更。

配属早々、部長の小林からリニューアル計画があることを告げられた。木元はそれを「大変そうだけど、とてもやりがいのある仕事ができそう…!!」と思い、期待に胸を弾ませた。もともと買い物が大好きで、百貨店やショッピングセンターによく足を運んでいた自分が、いきなりこんな大規模なリニューアル計画に携われるなんて、思ってもみなかったのだ。
チームは部長の小林以下、課長の時水、先輩社員の藤井に、木元を加えた4人体制。まずはOJT教育で、定例業務や施設運営、契約業務について、藤井から教わった。そしてリニューアル計画が実際に動き始めてからは、退店交渉や閉店セール対応、工事調整、既存店舗の施設運営、新規テナントリーシング、入店契約、ネーミング考案、開業準備といった業務を、メンバーで分担をしながら遂行していくことになった。

今回のリニューアルは、全43店舗中29店舗が対象となる。大幅にテナントを入れ替え、フードや生活雑貨関連の店舗を拡充。さらに、施設内の店舗区画や共用部の形状の変更、駅から商業施設までの空間を含めた環境デザインも手がけることになった。通常、駅構内の工事は管轄外である。しかし、本施設は高架下に位置していることもあり、駅の利用者が施設に立ち寄りたいと思う仕掛けが必要だと、木元たちは考えていた。
そこで営業部は、工事担当の技術部へ相談した。駅部と連携を図りながら、施設の環境デザインが駅コンコースと一体感を生み出すことのできるよう、技術部と数か月にも及ぶ打ち合わせを重ねた。大規模な工事となるため、通常工事とは異なる調整が必要で、工事直前まで打ち合わせを行うなど、スケジュールはかなりタイトだった。しかし、全部署の力を結集することで課題解決を図り、どうにか工事の目処をつけることができた。

さらに、リニューアルを機に施設名称も変更することとした。これは、阪急阪神ホールディングスグループとしてもあまり例のない試みだった。もちろん、長年親しまれてきた「ミング・阪急高槻」に対する愛着もあり、社内・グループ会社で様々な意見があがった。しかし、テナントの半数以上が入れ替わる大規模リニューアルは他社を含めても珍しく、イメージを一新する意味でも新名称のほうがふさわしいという思いが、営業部には強くあった。
複数のネーミング案が候補に挙がった中、「もっと笑顔でいられる駅=駅で笑う、笑みが溢れる」「もっと利用してもらえる駅=駅を見る、駅で見る」という意味を込めた「EMIRU エミル」が選ばれた。まちの人々とえきを利用する人々に、もっと楽しさと便利さを届けたい。リニューアルオープン時、「駅で笑おう。」というキャッチコピーが添えられた巨大ポスターが掲示されたとき、木元は感慨深い思いでいっぱいになった。「エミルで買い物していこう」と、自分たちの考えた施設名称が利用者の生活の一部にとけこんでいくのだ。これほど誇らしいことはない。

Episode 2

提案する立場の人間が、
施設のポテンシャルを信じなくてどうする?

テナントを誘致するリーシング業務においては、近隣や沿線のショッピングセンターを複数箇所視察し、そこにどんなテナントが入居しているのか、利用者が喜ぶテナントはどういったお店が良いか調査するところから始めた。チームのリーシング打ち合わせで、「エミル高槻」に出店してほしいテナントの候補を挙げ、チーム内の方向性を確認した上で商談のアポイントを取る、という流れだ。
まず、電話でリニューアル計画の概要や出店区画について伝え、その感触が良ければ次に対面での商談となる。最初のうちは時水や藤井に同席していたが、交渉先が増えるに従い、木元一人での商談が増えた。プレゼンの内容や熱量によって、先方の出店意欲は大きく変わる。一人で訪問する際には、大きなプレッシャーがのしかかった。

先方の決裁者は社長、もしくはそれに準ずる役職である。経験年数も浅く力不足であることは、木元自身が一番わかっていた。それでも、出店提案する側が施設のポテンシャルを信じなくてどうするんだと、自分を奮い立たせた。また、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの商業施設が休業、もしくは時短営業を余儀なくされる等、社会が混乱している中でもあったので、リーシングはさらに難航した。オープン時期に感染状況がどうなっているのか全く読めない中、電話口での断りが続く。「こんな社会情勢で新たに投資が必要な出店を検討できると思いますか?」と問われることもあった。
既存店舗の管理業務をリニューアル業務と並行して行う中で、社会の混乱状況は十分認識していたので、新規出店の検討をお願いすること自体失礼にあたるのではないかと、迷いもあった。しかし、挫けそうになったとき、時水の言葉が心の支えになった。「今の一言、思いやりがあって良かったよ」「良いと思ったものをまっすぐにチャレンジしてみたら?」上司は自分のことをちゃんと見てくれていた。「『エミル高槻』をお客様に喜ばれる最高の施設にしよう。」木元は粘り強く交渉を続けた。

Episode 3

自分で視察し、自分で実食し、
自分で交渉するからこそ、言葉に魂が宿る。

「“あったらいいな”が身近で素敵に揃う場所」をコンセプトに、本プロジェクトでは、特に飲食店のリーシングに力を入れた。まずはリサーチして気になった店舗をピックアップし実食。店の雰囲気や料理の味、スタッフの対応などについて調査した。エミル高槻に1番合う店舗はどこか、チーム内で確認しあい、初めて商談のアポイントを取る、という徹底ぶりだった。実食を行ったのは、パン屋だけでも数十軒に及ぶ。
地元の駅にあったら嬉しい店はどんな店だろう。知名度だけではなく、一消費者として自分たちの感覚も大事にした。

商談を重ねるごとに、木元のプレゼン能力は高まった。テナントが知りたいと思う情報を的確に提示し、自身の思いを真正面から伝えることで、成約にも結びつけた。やはり、いかに自分ごととして主体的に捉え、行動できるかが重要なのだろう。自分で視察し、自分で実食し、自分で交渉するからこそ、言葉に魂が宿る。そして、相手もそれを意気に感じてくれるのである。
今後、営業担当として、テナントに良い影響を与え続け、頼られる存在になることを目指す。また、影響を与える相手はテナントだけではない。むしろ、お店を利用してくれる人お客様あってのテナントだとも言える。「高槻ってエミルがあって便利だよね」「買い物したいからエミルに行こうかな」と思う人が少しでも増えたらいい、と木元は願う。もともと高槻市は昼間人口が多く、商業力のある街だ。今回のリニューアルで高槻のまち全体が活気づいてくれれば、これ以上の喜びはない。

「エミル高槻」は2020年11月にリニューアルオープンし、多くの買い物客や駅利用者で賑わっている。
阪急阪神ホールディングスグループが今後手がける沿線施設リニューアルにおけるモデルケースにもなった。